東京の緑

緑の取組事例

掲載日:令和6(2024)年3月26日

屋敷林の持ち主の高い保全意識と地域貢献 ~足立区の取組~

足立区の保存樹木・保存樹林の指定制度

大木や屋敷林などの緑は、都市に残された貴重な自然ですが、その地域に伝わる伝統や文化を未来に伝える存在でもあります。これらの緑は個人のお宅にあることが多く、剪定や落葉掃きなどの管理が、持ち主の方々にとって大きな負担となっています。また、相続をきっかけに売られ、開発されるケースも少なくないため、これらの緑の保全が課題となっています。
 足立区では、条例に基づいて、一定の要件を満たす樹木や樹林を、「保存樹木・樹林」に指定し、管理費用の一部を区が払っています。令和5(2023)年4月1日現在、区内には保存樹木が514本、保存樹林が29カ所(樹林面積54,099㎡)あります。
 保存樹木・樹林制度は、持ち主への規制も少なく、解除したいという意向にも沿える制度となっています。そのため、緑の減少を食い止めるためには、他の制度を活用していくことも必要です。そこで、区では保存樹林の一部を、都市緑地法に基づく「特別緑地保全地区」に指定し、より強い規制をかけています。この地区に指定された樹林では、剪定、草刈りなどの管理に、森林環境譲与税(※)を活用しています。 

区内の保存樹木(足立区提供)
区内の保存樹林(足立区提供)
屋敷林保全の後押しとなる取組

屋敷林の持ち主は、代々受け継いできた大切な緑を、未来に残していきたいと思っていますが、保全方法に関する情報が少なく、緑を残すことを諦めざるを得ない方々もいました。こうした人々に、緑の保全に関する情報を得るための人脈やネットワークを届けるため、足立区では、保存樹木・樹林の持ち主や管理する人の提案で、昭和51(1976)年に「足立区の保存樹・樹林を守る会」が立ち上がりました。区指定の保存樹木・樹林の持ち主の多くがこの会に参加しており、令和6(2024)年2月1日時点で、会員数は136名となっています。
 この会では、区内の保存樹巡りや管理方法の共有、研修会の開催などの活動を行っています。当初は、住民だけで活動していましたが、現在は区が事務局となり、活動を推進しています。

保存樹巡りの様子(足立区提供)
地域に根付いた屋敷林の保全
保存樹林・特別緑地保全地区に指定されている樹林(足立区提供)

屋敷林の持ち主にとって、保全のネックとなっているのは、管理だけではありません。周りの住民からの落ち葉などへの苦情により、保全を諦めてしまうこともあります。足立区では屋敷林を通した住民との交流により、保全を行っている事例があります。
 写真の樹林地は、昭和50(1975)年に足立区の保存樹林に指定されました。また、平成26(2014)年には特別緑地保全地区にも指定され、宅地化が進んだまちの中で、貴重な緑の島として、古くから地域の方々に愛されています。
 樹林の持ち主によると、父親の代から、屋敷林を地域の子どもたちに開放しており、子どもたちは屋敷林の中で虫取りなどをして自由に遊んでいるそうです。親子二代で遊びに来ている人もいて、子どもたちにとって貴重な遊び場となっています。また、秋には、屋敷林の落ち葉を利用した区の子ども会による焼きいも大会が催され、住民たちのコミュニケーションの場にもなっています。
 住民が屋敷林と普段から関わりを持つことで、地域の貴重な財産だという理解が得られ、また、この緑をみんなで守っていこうという意識にもつながっています。

焼き芋会の様子1(足立区提供)
焼き芋会の様子2(足立区提供)
今後の展望

都市に残された貴重な大木や屋敷林を守り、未来へ伝えていくためには、地域住民の理解や協力が欠かせません。そこで、足立区では、「足立区の保存樹・樹林を守る会」と連携し、意見交換を通じて、緑への理解を深めてもらう「保存樹フォーラム」を定期的に開催する予定です。また、住民に緑のことをもっと知ってもらえるよう、大木や屋敷林が持つ効果や、保全の必要性、日々の管理などの様々な情報を、イベントなどを通して発信していく予定です。こうした取組を通して、緑を好み、守っていきたいと思う人を増やしていきたいと考えています。
 また、特別緑地保全地区については、地域理解をさらに得るために、住民が緑とふれあい、親しめる場所として活用していく予定です。


※ 森林環境譲与税
森林整備及びその促進に関する事業を幅広く弾力的に実施するための財源として、森林環境税の収入相当額を国が都道府県・市区町村へ譲与するもの。


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